宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ
フォト・ファンタジスタ

写真・文:黒木一明
Photographer Kazuaki Kuroki

1954年西都市生まれ。ロスアンゼルス、シアトルを拠点に広告写真の分野で活躍。巨匠アービング・ベン氏との出会いを契機に風景写真に転じ、宮崎の自然と四季の美しさを国内外に発信している。主な著作に「風の色」「水平線の色」など。

栄松ビーチ(南郷町)
栄松ビーチ(南郷町)

世界中の海を旅してみて、日本だけにある海開きが、ちょっと不思議だった。梅雨が明けると、さあ夏が始まりましたよとみんなで一斉に海に入っていく。やがて海の家が閉鎖されて夏が終わり、人々で賑わっていた海辺が、嘘のように静かになる。宮崎の海には四季がある。南国とはいえ、一年中Tシャツ一枚で過せる常夏のイメージを宮崎の海に求めてはいけない。冬になると、季節はずれに宮崎を訪れた観光客の期待を裏切るまいと、フェニックスやワシントニアパームが寒さに耐えて並んでいる。僕は北風にさらされた街路樹をため息混じりに見る。

ハワイ、カリブ海、グレートバリアリーフと、世界のリゾート地を撮影して回ったけれど、どこも白い砂とパームツリーと、目の覚めるような、怖いくらいに美しい海を持っている。しかし常夏である以上、いつもみな同じ色をしていた。そんな、きらめく原色の海を見つめながら、流氷の流れる夏の北極海や北カリフォルニアの赤松越しに見るモントレーの海岸、季節によって微妙に変化する宮崎の海のことを、時々、僕は思い浮かべていた。宮崎の海には秋の切なさ、冬の厳しさ、春の優しさ、そしてきらめく夏の海の、少し官能的でほのかな甘い香りがある。それぞれの季節を海からの風が運んできてくれる。

石波海岸(串間市)
石波海岸(串間市)

四季があり、季節によって変化するからこそ、常夏では味わえない独特の風景が生まれる。パームやブーゲンビリアだけでなく、ヤマザクラや松林、サボテン越しに見える海辺の風景たち。こんな多様性に満ちた海辺は、世界中どこを探してもこの宮崎にしかない。本当にかけがえのない場所だと思う。

そして、ほどよい陽射し、ほどよい温かさに加え、何よりも人の心の優しさと温もりが宮崎の風景を織りなしている。美しい海があり、それを美しいと思える人の心がある。それこそが癒しの楽園なのだろう。無理に常夏の楽園を目指すことはない。
僕が求めるものは、限りなく優しい風の吹く日の水平線の色。その水平線の色を求めて日本中、世界中から人が集まる。そんな宮崎を夢見て、今日も僕は海へと向かっている。

恋ヶ浦(串間市) 堀切峠(宮崎市)
夫婦浦(南郷町) 青島(宮崎市)

写真上左から
恋ヶ浦(串間市)/堀切峠(宮崎市)/夫婦浦(南郷町)/青島(宮崎市)