宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ

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日向夏

晩春から初夏にかけて、宮崎の青空にふさわしい、さわやかな香味と上品な甘みを楽しませてくれる、日向夏。まるで、初夏の風がそのまま果汁になってつまっているような、この柑橘(かんきつ)は名前の通り、宮崎県が原産で、文政年間の1820年頃、宮崎市赤江の真方安太郎氏宅の庭先で発見された一本の木が、広まったものです。

この木がどのようにして生まれたのか、詳しくはわかっていないのですが、ユズとブンタンが深く関わっているのではないかといわれています。素晴らしい風味と、ほんのりとした甘みを備えた日向夏は、やがて全国に広がり、現在では宮崎県のほかに、高知県、愛媛県、静岡県、福岡県などでも栽培され、県内では綾町、清武町、日南市などで、年間2000トン前後が出荷される特産果樹となっています。

人気の種なし、味わいの種あり?

日向夏の出荷は、早いところではハウス栽培ものが12月中旬頃から始まり、それに露地栽培の早生ものが2月下旬から加わり始めます。そして、出荷のピークは3月から4月にかけて。宮崎ではちょうど、ぽかぽかとした陽気が続き、そろそろ初夏の訪れを感じる頃が、日向夏の最盛期です。

最近は、食べやすさから、種なしや、種の少ないものが大人気となっており、需要を大きく伸ばしていますが、一方で、種の多い露地栽培ものも、その独特のコクのある味わいで、高く評価されています。宮崎県果樹振興協議会の日向夏部会長を務める竪元良信さん(綾町)によると、「究極的においしい日向夏は、出荷が終わった5月下旬頃に、まだ木に残っている種ありもの」ということ。いわば熟しきった状態で、輸送に耐えられないため、残念ながら出荷されることはないそうですが、種あり日向夏だからこそ、ここまで味が深まるのだそうです。

大きく、おいしくなった日向夏

大きく、おいしくなった日向夏日向夏は、この20年ほどの間に、ずいぶん大きくなったことに気づかれた方もいらっしゃるのでは。また、香りやコクも、一段と向上しています。その秘密は、花への授粉にありました。日向夏は、ハッサクやブンタンなど、他の木の花粉をつけてやらないと、実がうまく育たない、自家不和合性と呼ばれる性質を持っています。そのため、自然状態では、うまく受粉せず、実も大きく育たないそうです。

また、産地をあげての有機肥料づくりへの取り組みや、除草剤など薬剤を減らしながらより手間をかけた作業を行うことで、従来よりもさらにおいしい日向夏ができるようになっています。授粉が行われるのは、5月上旬頃。それから10か月という、果樹としてはずいぶん長い時間をかけて、日向夏は、ゆっくりゆっくり熟成していきます。

皮を味わう柑橘

日向夏は皮を味わう柑橘ですので、皮の色のついた部分だけを、ちょうどリンゴをむくようにしてナイフでむき、食べやすい大きさに切って皿に盛ります。白い皮の部分は、苦みもなく、果肉と響き合うような風味があります。以前は、上から砂糖や塩を少しかける食べ方も多かったのですが、最近は、何もつけずにそのまま食べるのが主流のようです。これは、早生の日向夏が徐々に広まり、以前に比べて酸味の少ない果実が多く出回るようになったためです。

なお、黄色い果皮はマーマレードをつくるのにも適しています。宮崎の民家の庭先に、天からの恵みのように偶然生まれた日向夏。宮崎出身の作家、中村地平が「淡黄の絵具をとかしたような」と表現した美しい色合いと、豊かな風味を、ぜひ味わってみてください。

How to eat
1.なるべく薄く、外皮をむきます。白い内皮を多く残すのがポイント。 2.実の中心から、外に向けてそぐように切ります。 3.そのまま、皿に盛りつけて、お召し上がりください。

日向夏