宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ

Jajaバックナンバー

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心と体を癒す森
宮崎の森林セラピー基地 

森の風景

町の暮らしから少しだけ逃れて、森の中にたたずんでいると、どこからか聞こえてくる沢の音。そちらに歩を進めていくと、沢沿いの石に着いた苔の匂いまで漂ってくるようだ。 葉の間から漏れてくる光の優しさ、ミツバチの羽音、木肌のぬくもり。ふだん、閉ざされている五感が目を覚まして、森がさまざまなことを語りかけてくる瞬間、ふと肩の力が抜けていく気がする。森には、フィトンチッドや、マイナスイオンといった言葉だけでは語りつくせない、人を癒す力があるのだろう。

そうした森のもつ癒しの効果に注目して、それを積極的に活用しようと、林野庁などで構成する森林セラピー実行委員会は、全国で約30箇所の森を「森林セラピー基地」として認定。それぞれの地域の特性を生かしながら、森に親しむためのエリアづくりを進めている。 宮崎県内では、日之影町、綾町、北郷町の3エリアが森林セラピー基地に認定され、自然、歴史、文化と一体となった「森」の魅力を発信している。 宮崎の森林セラピー基地を歩いてみた。

 

日之影町

トロッコ道をたどり、石垣の村へ清流沿いを歩く、木漏れ日の道。

変化に富んだ川沿いの道
一尺(約30cm)に達する大型の鮎で知られる五ヶ瀬川と、日本のフライフィッシング発祥地といわれる支流・日之影川が合流する日之影町は、祖母傾国定公園の主峰、傾山(1605m)をはじめ、矢筈岳、五葉岳、丹助岳などを擁する森と水のまちだ。 その豊かな森に親しもうと、地元では地域ごとに五つのウォーキングコースを設定しているが、中でも知られているのが、「日本の遊歩百選」にも選ばれている「石垣の村トロッコ道ウォーキングコース」。

石垣の村トロッコ道ウォーキングコース

日之影温泉駅から日之影川のほとりを歩いて戸川地区へ向かう約8kmの道のりは、ほとんど起伏のない、平坦なコースなので、誰でも森歩きを楽しめる。 もともと、伐り出した木材を運ぶためのトロッコ道だった川沿いの道は、いくつもの瀬や淵が連なる日之影川の変化に富んだ景色を楽しむ、絶好のルートになっており、その道に注ぐ木漏れ日の美しさが印象的だ。 コース終点の戸川地区は、江戸時代末期から、七戸ほどの村人だけで集落中に見事な石垣を施した石垣の村。日当たりの良い斜面には、「日本の棚田百選」に選ばれた石垣作りの棚田があり、美しい景観が広がっている。 釣りや神社めぐりで近くまで来たら、ぜひ立ち寄ってみたい散策コースだ。

石垣の村トロッコ道ウォーキングコース
左)昭和30年代まで、この道を木材を積んだトロッコが走っていた。
中)コース沿いには日之影川の水辺の風景が続く。
右)宅地や棚田、石蔵など集落全体に石垣が施された戸川地区。

問い合わせ:日之影町森林セラピー推進協議会 0982-87-3910

 

綾町

眺める森から、感じる森へ照葉樹林の息吹を間近に。

森の真ん中にたたずむ観光
国内最大の照葉樹林が広がる綾町は、早くから森を大切にするまちづくりに取り組み、その魅力を全国に発信してきた。また、森から生まれるケヤキや染料などを利用した、クラフトのまちとしても知られている。 そんな綾町の、森林セラピー基地への取り組みの基本は、「森に身を置いて、間近に森を感じること」と、綾町役場の河野耕三さん(照葉樹林文化推進専門監)は語る。 観光の目玉となっている照葉大吊り橋が、雄大な森を俯瞰する楽しみとすれば、森林セラピーの拠点と位置づける川中自然公園から続く遊歩道は、森の真ん中に身を置くことで、綾の森の豊かさを体で感じるものといえるのだろう。

国内最大の照葉樹林

「公園の正面に見える森には、イチイガシの巨木林があるのですが、これは世界でも南九州にしかない群落です。ここから川中神社へ続く道も素晴らしいのですが、歩かなくてもいいですから、とにかくこの空間に身を置いてみてほしい。今までの観光ルートでは見えてこなかった、綾の森の深さに気づいていただけると思います」 川中自然公園には、特に施設らしいものもなく、ただ綾南川の澄んだ流れのほとりに、ぽっかりと開けた空間があるだけなのだが、それでも、しばらくあたりを散策しているうちに、ここを「拠点」と位置づけた綾町の、森の先進地としての見識がみえてくるようだ。

石垣の村トロッコ道ウォーキングコース
左)142mの高さから照葉樹林を見渡せる照葉(てるは)大吊り橋。
中)町内には綾北川、綾南川のふたつの流れがあり、澄んだ水をたたえる。
右)綾の森林文化を紹介する照葉樹林文化館。

問い合わせ:綾町農林振興課 0985-77-0100

 

北郷町

五重の滝をめざして、七つの橋を渡る瀬音の道

変化に富んだ水辺の散歩道
温泉と渓谷のまち、北郷町。鰐塚山に流れを発し、日向灘に注ぐ広渡川には、緑豊かな谷筋を縫うように猪八重川、黒荷田川の二つの支流があり、それぞれに美しい水辺の風景をみせてくれている。 その代表的なコースが、猪八重川の最上流部にある五重の滝をめざして、渓谷の道をゆく「猪八重渓谷ウォーキングロード」(全長約3km)だ。 七つの橋を渡る片道60分ほどの道のりの間に、川に巨石が折り重なるように連なっていたり、陽の射す明るい浅瀬が広がっていたりと、変化に富んだ水辺の風景が続く。

水辺の風景

照葉樹の原生林が鬱蒼と広がる森は、綾の照葉樹林とは少し風景が違い、道の両側にシダ類やコケ類が多い。付近に二十数カ所あるという滝や、水量に恵まれた渓谷が、常に一定の湿度を与えていることが、その理由といわれているが、熱帯・亜熱帯の森と、温帯の森が、ちょうどここで交わっていることを思わせる。 遊歩道と水辺が非常に近いのも特徴で、上からのぞきこむと、山太郎ガニ(モクズガニ)やウグイなどの姿を見ることもある。 平成21年春に、グランドオープンを迎えた北郷の森林セラピー基地。地元では、セラピー料理の開発や、周辺の温泉などと組み合わせたメニューで、森の魅力の発信に取り組む。

猪八重渓谷ウォーキングロード
左)北郷は桜の名所。春、花立公園には約1万本の桜が咲き誇る。
中)歩道と水辺の距離が近いのが、特徴のひとつ。猪八重渓谷の渓流美を、間近で体感できる。

問い合わせ:北郷町産業開発課 0987-55-2111