宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ
高原町・都城市

地鶏文化圏の祝い膳

高原町・都城市

霧島連山を望む都城盆地周辺は、藩政時代は旧薩摩藩に属していたこともあって、宮崎県内でも独特の風俗や文化を伝えている。霧島信仰や田の神さま、薩摩言葉に近い方言など、長い歴史をもつ特徴的な文化が諸県の個性を彩っているが、食の面でいうと「地鶏の文化圏」といえる。味の良さで人気の「みやざき地頭鶏」も、霧島山麓が原産の天然記念物・地頭鶏がルーツだ。

「正月に限らず、結婚式も棟上げも、とにかくいい事があると鶏をつぶして食べるものでした。子供の頃はごちそうというと煮しめでしたが、その煮しめにもちゃんと鶏が入っています。もっとも弔事の時には、精進になりましたが」

今回、正月のお膳を作っていただいた高原町の勝吉美智子さんはそう語ってくれた。勝吉家のお膳の主役は、やはり煮しめ。鶏の骨付き肉でだしをとり、大根、人参、ごぼう、乾燥竹の子、こんにゃく、里芋などが入る。そして、しょうが醤油で食べる鶏の刺身が目を引く。この刺身と煮しめが、諸県の祝い膳の象徴だ。「めったに食べるものではなかった」という鶏をつぶして供することが、その家にとって最大のもてなしであり、人生のさまざまな慶事が鶏を料理することから始まっていたのだろう。

「ななとこずし」と「まぜ飯」

正月七日は、都城地方の「ななとこさん」の日だ。「ななとこさん」は子供の無事な成長を願う行事で、数え年七歳になる子供が晴れ着を着て、親や兄弟に付き添われて近所の家々を七軒回り、それぞれの家で七草を炊き込んだ雑炊をもらう。
近年では実際に七軒の家を回ることは減り、神社などでお祓いを受けてすますことが多くなっているが、その日に作る雑炊は、「ななとこずし」と呼ばれ、一般的な七草がゆとは異なる意味合いの食べ物として伝えられている。

「ななとこずし」と「まぜ飯」

地域のハレのご飯としては、もうひとつ「まぜ飯」がある。鶏肉やごぼう、人参、干し椎茸などの具が入ったまぜご飯で、やはりこれもとっておきの料理だった。盆や正月など親戚が集まるような日には、煮しめや鶏の刺身とともにこのまぜ飯を肴に、男たちは焼酎を飲んだという。

ほぜ祭りには、こんにゃくと甘酒

勝吉家のこんにゃくは、庭に植えているこんにゃく芋を使った自家製だ。しこしことした歯ごたえの中に、なんともいえない風味があるもので、煮しめのほか、しょうが醤油で食べる刺身は、ハレの日のおやつだった。地域で広く行われている秋の「ほぜ(豊作)祭り」は一年の労働を終えた喜びとともに迎える収穫祭だが、この祭りの日には、こんにゃくの刺身と同じく自家製の甘酒を必ず用意する。

「稲刈りが終わって脱穀をする時に、どうしてもほこりを吸い込みます。こんにゃくはそれを消すといって、ほぜ祭りの時には皆で食べたものですが、子供の頃はこれが一番の楽しみでしたね」

こんにゃくと甘酒という取り合わせは不思議な感じもするが、味わってみるとまさに絶妙で、晩秋の青空の下で繰り広げられる祭りの楽しさまで想像できるようなものだった。

こんにゃくと甘酒

    

取材協力
●勝吉美智子さん(高原町地域婦人連絡協議会)
●日本料理瓢亭(都城市栄町4894-4