宮崎県季刊誌「Jaja」じゃじゃ
ひむか本サバ

美しくしまった切り身を見るだけでもおいしさが想像できる。適度な歯ごたえと、淡くひろがる脂。深い味わい。天然ものに負けないという言葉が、むしろ謙虚なものに感じられた。

目標はマサバ独特の深い味わい。
関サバに負けない味をめざして。

北浦町/中西茂広さん

「北浦町には関サバに負けない養殖マサバがある」と、評判だ。身近な大衆魚だったサバも、漁獲量は1978年の147万トンをピークに減少し、近年は数万トンとめっきり少なくなった。中でも刺身で食べられる鮮度の高いマサバは、寿司店や割烹向けに高値で取り引きされている。

北浦養殖マサバ協業体(14人)が出荷している『ひむか本サバ』は、100g未満の稚魚を湾内のいけすで養殖。体重400グラム以上、無投薬、出荷前の餌止め、飼育履歴の明示などの条件を満たしたものに、一尾一尾『ひむか本サバ』のシールをつけ、県内外に出荷している。

マサバの養殖というほとんど前例のない事業に初めて取り組んだのは、同協業体代表の中西茂広さん。平成11年から、それまでのカンパチ養殖に代わるものとしてトライを始めたが、1年目は完全に失敗。まずまず納得のできるものに仕上がるまで丸3年かかったという。

中西茂広さん親子

長男の彬裕さんといけすに向かう。「息子と仕事ができるのは幸せなこと。口では言いませんけどね」。朝5時半から夕方まで、餌やり、出荷などの仕事がほぼ周年休みなしで続く。

「サバは回遊魚で動きが速く、ウロコがないので魚体が網などにスレて痛みやすい。扱いが非常にむずかしい魚です。それから夏場のへい死には困りました。水温が28度を超えると途端に弱くなります。この問題は、高水温時に餌を止めればいいことに気づいて解決しましたが、何よりも最初は肉質が向上しないのが悩みでした。やはり天然もの、それも関サバなどのブランド魚の肉質が目標ですから」

中西さんの理想とするマサバの肉質は、身そのものの歯ごたえや味わいに加えて、適度な脂肪の量と、その脂の質がくどくなく、うまみが深く、軽い後味であること。餌を少なく控えると太らず、多すぎると夏場のへい死が増える上に、味にも疑問点がつく。このバランスをとるために努力を続けてきたが、最近では「シメて1日以内という条件つきで」、ほぼ関サバと同等のものが作れるようになった。

「延岡市内のお店が、これなら関サバに代えられると取り引きを始めてくれるようになりました。うれしいことですが、私の中ではまだ70点。日持ちの点で改良すべきところがあります。この点を改良して完璧なものにしたいですね」

生け簀の作業

一尾一尾、ていねいに網ですくい、その場で血抜きをして氷ジメに。ほかの魚以上に鮮度が命のマサバだけに、作業は速い。